かつては、フィリピンのピナツボ火山が噴火し、周辺を飛ぶ路線は、迂回せざるを得ませんでした。1991年のことでした。
私事ですが、ピナツボ活火中に、NRT/マニラ間を当時何度か乗務しました。大きく、迂回しているにもかかわらず目には見えない粉塵が、機体やエンジンに纏わりついてきたことを良く憶えております。
噴煙の中には、灰がまじり、二万~三万フィートを漂います。こうした異物が、ジェットエンジンに吸い込まれるとブレードを破壊し、下手をするとエンジン停止という事態もあります。
噴煙の危険さを予知されていない頃ですが、過去には、以下のような実例があります。
1) 1982年6月24日、マレーシアのクアラルンプールから オーストラリアのパースに向かっていた英国航空9便のボーイング747-200は、 乗客247名乗員16名を乗せ、スマトラ島の南を巡航中、高度11470mで 4基のエンジンが停止するという事態に見舞われた。
全推力を失った当該機は、グライダーのように滑空し始め、 高度を急激に落としていった。
急降下中に乗務員が20回にも及ぶ再始動操作を試みたところ、 高度4030mで、1基のエンジンが回転しはじめ、他3基のエンジンも数十秒後に 同様に回転し始めた。
再始動後のNo2エンジンが不調であったため、機長はこれを停止させ、 エンジン3基でジャカルタに向かった。
ジャカルタでは夜であったため視界も悪く、 さらにはコックピットのウインドシールドに傷がつき前方がほとんど見えない状況 であったが、機長、副機長、航空機関士は当該機を着陸させることに成功した。
乗員乗客は全員無事であった。【経過】
当該機はクアラルンプールを離陸後、順調に飛行を続け、 高度11470mで巡航、乗客には夕食が配られていた。 機長が休憩のためとコックピットを出たが、すぐに他の乗員に コックピットに戻るようにという連絡を受けたため、コックピットに戻ると、 副機長と航空機関士は、当該機のエンジン周辺で起こっていたセントエルモの炎に 見入っていた。
それはまるでマグネシウムを燃やしたときにできる炎が エンジン内に入っているようであった。
その直後、No4エンジンが停止し、他の3基のエンジンも次々と 停止していった。
現在のジェット機において4基のエンジンが同時に停止することは あり得ないと思われていただけに、当惑したクルーは直ちにジャカルタに救難通信を 行い、4基のエンジン全てが停止したこと、また最悪の場合には当該機を海上に 不時着させる旨を伝えた。
この無線通信は静電気の影響で大変聞きにくいものであり、 ジャカルタの航空管制官は内容を理解したものの、4基のエンジンが停止したという 事実は信じられないものであった。
高度11470mから推力を失って滑空始めた当該機は、 20回に及ぶ再始動操作の結果、高度4030mで、1基のエンジンが始動し、 その90秒後に残り3基のエンジンも始動した。
No2エンジンは始動したものの、回転が不安定であったため停止させ、 3基のエンジンで緊急着陸先のジャカルタに向かった。
コックピットのウィンドシールドは火山灰に傷つけられたために曇りガラスのようになり、 両端5センチほどの隙間からしか前方を見ることができなかった。
さらに夜であったため、視界はかなり悪かったが、 コックピットクルー3名は、無事当該機をジャカルタに着陸させた。【原因】
当該機が飛行していた地域では、 当時グルングン火山が3ヶ月にわたって噴煙を上げていた。
この事故の原因は当該機が火山灰雲に入ってしまい、 エンジンが火山灰を吸い込んでしまったことにより停止したものを考えられる。
エンジン付近で見られたセントエルモの炎は、 金属表面が火山灰等の粒子中を通るときに静電気が放電することによって起こる。
エンジンに吸い込まれた火山灰は高温に熱せられ燃料ノズルや タービンブレードに堆積してゆき、推力を低下させ、最終的にはフレームアウト (エンジン停止)を引き起こす。
また火山灰の中を飛行すると、窓ガラスは傷つき曇りガラスのようになり、 与圧系統、計器等にも損傷を与える。
火山灰雲は通常の雲とほとんど同じように見え、 昼間であっても区別することは難しい。
事故が起こったのは夜間であったため、 さらに見えにくかったものを考えられる。
また火山灰雲の密度は通常の雲よりも低いため、気象レーダーに映らないことも、 火山灰雲を避けられなかった一因である。
1982年当時、火山灰の動きを観測し警報を発する装置や機関もなく、 噴火により舞い上がった火山灰が上空を飛行している航空機のエンジンに及ぼす影響についても ほとんど知られていなかった。
この事例では、火山灰雲から抜け出すことでエンジンの再始動が可能になった ようであるが、火山灰による損傷はエンジンだけではなく窓ガラスや計器等にも及ぶため、 最悪の場合は墜落という事態になってしまう。【対処】
コックピットのクルーにより再始動操作が行われ、高度4030mのところで再始動に成功し、ジャカルタに緊急着陸した。
2) 1989年にはアラスカのリダウト火山が噴火し、 オランダ航空のボーイング747が4基のエンジン停止という事態に陥っている。
このボーイング747はアンカレッジ空港に緊急着陸し、 乗員乗客は全員無事であった。
エンジン交換4基分などを含め被害総額はおよそ8千万ドル (およそ85億円)となった。
この事故後、アラスカ火山監視所(Alaska Volcano Observatory, AVO)は 24時間間体制の監視を始め、噴火の兆候である数分間以上の強い揺れが観測されたときには、 連邦航空局(FAA)等の主要機関に通報が行くようになっている。
このような地上観測のほかに、気象衛星に搭載されている酸化硫黄ガスの 広がりを測定する装置や、赤外線探知機により火山灰雲の広がりを測定する装置も加え、 より的確な拡散予測ができるようにしている。
1991年に起こったフィリピンのピナツボ火山噴火の際は、 監視体制の成果により航空機のエンジン停止事故は起こらなかったが、 20機以上の航空機のエンジンに損傷を与えた。
現在では日本の気象庁など世界9ヶ所に設置された航空路火山灰情報センター (Volcanic Ash Advisory Center, International Airways Volcano Watch等)が、 監視や火山灰拡散予測を行っており、事故再発防止に貢献している。
こうした教訓を経て、1991年のフィリピン ピナツボ噴火以降は、「噴煙の中はもちろん、周辺にも近づかない。」ということが徹底されています。レーダーには写りませんので、もっぱら目視しながら慎重に迂回することになります。
これまで「火山爆発による火山灰の拡散予測とその航空路安全」についてピナツボ噴火以来、東京大学で研究が行われています。 研究によれば、噴火後も噴煙や灰は相当な領域に広がり、航空路に重大な影響を与えることがわかります。(およそ半径120キロメートル以上の範囲と読み取れます)
また、今回のアイスランド火山噴火は、ピナツボと違って、「ヨーロッパ全体の上空」に広がり、ヨーロッパにおける「国内国際を問わず離発着する航空便」に支障をきたすのではないか、という点が重大です。
国内は、鉄道・車で補完できたとしても、国際線は、空を頼るしかないわけですから今後の噴火動向を注視しなければなりません。
「9・11以来」、世界の空の便が大混乱
4月16日10時55分配信 読売新聞
【ロンドン=大内佐紀】アイスランド南部で14日、大規模な火山の噴火があり、欧州各地に火山灰が到達。 AFP通信によるとこの影響で航空機5000~6000便が欠航になった。主要空港も次々閉鎖され、影響は日本発の便にも及んでおり、世界の空のダイヤは2001年の米同時テロ以来という混乱を来している。
噴火したのは、首都レイキャビクの東約120キロ・メートルのエイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山。付近の住民800人が避難したが、被害の情報はない。 だが、火山灰が急速に広がり、パイロットの操縦や航空管制に影響するほか、飛行機のエンジンに障害を起こす恐れもあることから、15日以降、欧州各地で主要空港の閉鎖や欠航が相次いだ。
英航空当局は当初、16日早朝まで英国上空の飛行を禁止する措置を発表したが、禁止は少なくとも同日午後1時(日本時間午後9時)まで延長となっている。空の玄関ヒースロー空港はじめ英国発の便は15日だけで約840便が欠航となり、30万人以上が影響を受けた。また、日本や米国などからの旅客機の多くが、着陸出来る見通しが立たずにUターンした。
英航空当局は、飛行禁止は「米同時テロの時にさえなかった事態」と語っており、影響の長期化が懸念されている。
火山灰の影響は時間の経過と共に北欧諸国やオランダ、フランス、スイスなどにも広がっており、16日も各国で主要空港の閉鎖や欠航が相次ぐのは必至だ。 最終更新:4月16日12時18分
米航空会社も一部欧州便を欠航、アイスランド火山灰の影響
4月16日10時26分配信 ロイター4月15日、アイスランドで14日発生した火山噴火の影響で、米国の航空会社も欧州便の約半数を欠航。写真はヘルシンキの空港で発着便情報を見る乗客(2010年 ロイター/Lehtikuva)
[アトランタ/ロンドン 15日 ロイター] アイスランドで14日発生した火山噴火の影響で、米国の航空会社も15日、欧州便の約半数を欠航とした。米国航空輸送協会(ATA)が明らかにした。
ATAのスポークスマンによると、火山灰により欧州北部の空港が閉鎖されたことを受け、米航空会社は英国行きを中心に、毎日300便以上ある欧州便のうち約165便をキャンセルした。
デルタ航空<DAL.N>のスポークスマンは電子メールで、16日朝までに米国発のアムステルダム、ブリュッセル、ムンバイ行きなどで65便が欠航したことを明らかにした。UAL<UAUA.O>傘下のユナイテッド航空も、欧州発の32便と同着の30便のフライトを中止した。
今回の噴火は、先月20日の噴火と同じエイヤフィヤトラヨークトル氷河の下にある噴火口で発生。上空6─11キロまで上がった噴煙は、南東の方角に広がっている。
欧州の航空安全当局によると、火山灰はこの後も2日ほど航空便に影響を与える可能性がある。火山の専門家は、噴火活動が続けば向こう6カ月にわたり断続的に影響が出る恐れもあると警告している。
欧州北西部の一部空域では飛行禁止措置が取られ、欧州で最も利用客の多い英ロンドンのヒースロー空港では15日、1250便のうち840便、乗客約18万人の足に影響が出た。ガトウィック、スタンステッド、グラスゴー各空港でも合わせて12万人以上に影響が出ている。
火山灰は、視界を悪化させるだけでなく、レーダーで感知できないため、破片が機体を傷付けたり、機会系統や換気装置に悪影響を与える恐れもある。


私は地上、しかもタウンで働いていたのでホント実感が湧きませんでしたよ。その点、秀島君は乗務されていたからよく理解できるのでしょうね。私は勤務が終わって機長が日比谷の事務所にやって来て初めて色々聞かされたものです。
以前、姪がアラスカの災害でソウルで足止めをくって現地の状態が分からず、兄が私に電話してきてKEさんに聞いてあげてやっと安全を確認できました。キャリア同士は現状を教え合いますが、一般人には・・・