~乗員のレストとファシリティーその4~
交代のための編成のありかたを、用語としては、シングル(交代なし)マルティプル(水増し交代)ダブル(完全交代)というふうに呼ばれ、識別されています。このうちダブルというのは、C/C・C/Aとも前々回お話した「アエロフロートとの共同運航」以来存在していません。
話は少しそれますが、歴史的に言いますと客室乗務員C/Aについては、悲しいかな休憩の場所さえ確保されていない時代がしばらく続いたこともあります。私も乗務を長く体験したDC-8使用のモスクワ線では、「ごみのふくろが山積みの狭いギャレーに、毛布を敷いてしばし座り込む」というなんとも情けない有様でした。人間の誇りとして、「こんな姿は誰も想像していないだろうね。」と互いを慰めあったものでした。
また、現在でも、C/Cの問題として、「サンフランシスコ線の交代なし乗務」というのが依然そのままです。休憩なしでは「緊張の持続にも限界!」とパイロット側から「安全を危惧する」声が強く挙がっているのですが・・・。こういうことは、利用者にはあまり知られておりませんが、聞けば「心配」なことです。先日報道された長距離トラックの運転手さんたちが、過労運転スケジュールで居眠りし、重大事故を起こしたことなど、みますと、空の上はもっとシリアスな状況ですからね。
では、次回は「クラス別で大きな落差のある座席」についてまたご説明いたしましょう
Category Archives: エッセイ&コラム
星降る夜に!(23)マルチプルと呼ばれる交代システム
~乗員のレストとファシリティーその3~
普通勤務を交代するということは、いっぺんに新たなメンバーになることをイメージしますが、機内では少し様相が違います。C/CとC/Aはそれぞれの取り決め(勤務の協定)によってまた違います。C/Cの場合、安全上の是非は別として、かつての3名(機長ーキャプテン、副操縦士ーコーパイ、航空機関士ーフライトエンジニア)から現行機材では、2名(キャプテン、コーパイロット)となりました。長時間フライトの場合
ここにパイロットを1名追加して、3名が3交代で一人ずつ仮眠を取ります。そしてレストファシリティーはC/C専用のベッドがあります。さて、客室乗務員C/Aの場合は、どういう交代かというと、十数名の編成に1~2名の追加で運航されるのが通常です。
人数に少し「水増し」ありというのが実状でしょう。客室の場合、9時間を超えるロング
フライトでは、2~3回の食事サービスの作業を全員で当たらなければとても旅客に対応できないことから、その合間を縫っての交代仮眠です。ファシリティーは手狭なため「蚕だな」ともいわれるベッドが8床ほど機内のどこかに用意されています。
さて、少し長くなりましたのでこの続きは、次週にまたお話いたします。
星降る夜に!(22)機内で交代するということは・・?
~乗員のレストとファシリティーその2~
今の、ジャンボ機のようにな足の長い飛行機がなかった頃、今から見れば、「へ~・・。」というお話がいろいろありました。
まず、お馴染みの「ハワイ線」ですが、DC-8の30~50シリーズで太平洋を飛んでいた頃は、「ウエーキ島」に給油のために着陸していました。もともと米軍のミリタリー基地ですから、つかの間の給油時間の間隙を縫って、乗務員がダンボールに入れたごみをまとめて廃棄に行っていました。ちなみに段ボール箱は、カードボードボックス(cardboard box)といいます。まあ、この頃は運賃も高価で(エコノミークラスで片道20万円)旅客も少なく、乗務員との距離感も近くなっており「ウエーキ島には2度とこれないかもしれないですね」と話したことを記憶しています。
しばらくすると、DC-8、55シリーズが主力機となり、緊急着陸の事態でもなければ寄航することもなく、2度と、かの地を踏むことはありませんでした。
さて、ちょうどその頃、ロシア(当時のソ連)方面では、アエロフロートと日本との共同便が運航され始めました。羽田からモスクワです。私は体験しませんでしたが、機材は、ツボルフ、乗員は、日本とロシアがワンセットのクルーを出し合って途中全員完全交代をする、というものでした。
このころまで、操縦並びに保安要員として連続して、緊張を持続して働ける機内の限界は、『9時間』、フライト前後の勤務時間は『13時間』というのが、航空界の中では、一般的な基準でした。従って、「航空機材の革新で、9時間を超える路線」が出現した時はどういうふうに交代していくかが、次なる課題となっていました。
次回は、寄港地なしでダイレクトに目的地に行けるようになった歴史と、いよいよ乗員の交代、ファシリティーに触れていける事と思います。お楽しみに・・。
星降る夜に!(21)狭い機内で、どんな風に「ひと休み」しているのでしょうか
~乗員のレストとファシリティーその1~
「乗員の方は、いつ休むんですか。」
「休む場所はあるんですか。」
これは、かつて、旅客の皆さんからよく聞かれた質問でした。
そこで今回は、この辺を少しひも解きましょう。
まず、パイロット(コックピット クルー、略してC/C)にしてもキャビンアテンダント
(略してC/A)にしても、「フライトタイムが短い国内線では、交代で休むという形態はない。」と考えていただいて結構です。該当するシチュエーションは、「国際線」それもフライトタイム(飛行時間)が少なくとも6時間以上の場合といえるでしょう。航空会社の規定(労使間の協定)によって多少の差は、でてきますが。
長時間を飛ぶということでは、つい最近2月3日のことですが、「シンガポール航空は、シンガポールとロサンゼルスを16~18時間半で結ぶ、飛行時間が世界最長のノンストップ便を就航させた。」というニュースがありました。
これまでの世界最長は米コンチネンタル航空の香港―米ニューヨーク便の15時間半といわれています。日本からですと、成田/ニューヨーク間が往路復路で違いますが、ニューヨーク/成田では、14時間を超えるロングフライトでこれが最長です。
シンガポール発ロサンゼルス行きは16時間、ロサンゼルス発だと約18時間半にもなります。機体はエアバスA340―500を使用して、乗客が疲れないよう、座席を通常より少ない181席に減らし、ゆったりとしたつくりにしたとのことです。
さて、この場合、この超長時間フライトの操縦をするC/C、絶え間ないサービスを求められるC/Aは、どのような形で休憩をとるのか、また交代をとるのか、またその場所はどのように確保されているのか、実は、私にとっても大変、興味と関心を抱かせる問題です。なぜなら、「居眠りなど考えられない、という操縦室内の環境-C/C」「いつでも機内の変則事態にこたえられる気力と体力-C/A」などが保障されてはじめて
「フライトの安全と快適」は支えられる訳ですから。
長くなりますが、この予告編ともいえる状況をご存じないと「機内の世界」は垣間見ることができません。
さて次回からは、航空機材の革新によって、フライトタイムが伸び、機内の様子がどう変わってきたのかにも触れながら、変わってきたフライト「リアルな実態」をお伝えしてゆきましょう。
マナーと危機管理のグローバル化
これだけは気を付けたい海外旅行
[電通報 1月26日号 文化欄]に掲載されたものです。
待つことを楽しむアメリカ流
「アメリカ本土は、初めてです」という新人スチュワーデスを連れてのフライトでした。ロサンゼルス空港からダウンタウンに向かう車の中で、外を見ていた彼女は「あっ!アメリカにもデニーズがあるんだ?」と小さく叫びました。「日本が本家」と彼女が勘違いするほど、およそ三十年前の日本には、デニーズをはじめとして外食チェーンが続々と進出していました。一週間に一度は子供をつれて「ファミレス」で食事する、これでパパはよき家庭人、という風潮が広まった時代でもあります。この頃から、レストランに入った時には、「空いている席に、われ先に座る」という習慣から、「案内があるまで待つ」という風に、これまでの日本人の意識も変わりました。この点では、「ファミレス」はマナーのグローバル化の先駆的役割を果たしたともいえます。
今では、電車や、タクシーに列を作ることには、あまり抵抗を感じなくなってきましたが、例えば、アメリカで銀行に行って、整然と列を作り、開いた窓口に進む様子に、感心した旅行者も多いのではないかと思います。日本人であれば、行列に割り込みはさせないぞ、という構えがありますが、彼らは待つことも楽しむ風情さえあり、余裕を感じてしまいます。とはいうものの、タバコのポイ捨ても、恥ずべきことと定着してきている昨今、かつてからすれば、日本人のマナーは飛躍的に向上してきているようにも思えます。
物頼む時は少なくとも「プリーズ」を
ところが、いったん海外へ出るとなると事情は一変します。その土地々々の人から見れば「旅の恥はかき捨て」とばかりにふるまっているように見えてしまうケースが多いのは、一体どうしたことなのでしょう。欧米人は、旅行する場合、まず相手の文化を知ろうとするのが常です。私がクルーとして乗務していた機内でも「箸の使い方を教えてくれ、サンキューは日本語でなんというのか」などの質問をしてきます。一方、日本人は、そんなことより、ひたすら買い物への意欲が前面にでます。ここに違いがあるような気がします。
フライトが十時間を超えるような機内では、各旅客が、「食べる」「飲む」「眠る」「観る」などを繰り返すわけですが、その中で、「これは海外では不興を買う」という典型的なものに、「言葉の投げ捨て」があります。それは、コールボタンでクルーを呼んで、「コーヒー!」「コーク!」とフレーズにならない単語を連発することです。サービスする側は「コーヒーがどうしたの?」と心の中で反発心を養わせることにもなりかねません。英語なら、「Excuse me . Let me have a cup of coffee.」「Can I have~」のフレーズか、最低でも「Coffee Please」が必要です。いくらお金を払っていようが、物を頼むときにはこのプリーズが、いのち命ともいえる大事なことなのですが、多くの日本人は、老若を問わず、この一言がでてこないようです。ちなみにフランスでは「シルブップレ」、ドイツでは「ヴィッテ」、イタリアなら「プレーゴ」が、英語の「プリーズ」にあたります。
また、欧米では、エレベーターに女性が乗り合わせ、その女性が降りようとしているときには、男性は絶対先には降りません。しかし、日本人が混じった場合は必ず、男性が平気で先に降りてゆきます。乗り合わせた人達の呆れ顔を何度体験したことでしょう。些細に思えることでも、マナーとして身につけておくに越したことはありません。
世界の動向と自分の立ち位置つかめ
さて、イラクの情勢にからんで、テロやハイジャック対策がこれまで以上に厳しく求められています。私も、航空の現場を長く体験してきたことから、関係省庁に「危機管理の問題点」を意見具申しています。その中で感じることは、日本は国家としても、国民としても世界の中で「危機管理」の意識が高いとは言えないということです。この年末年始にしても、世界の緊張をよそに外国へ出かける旅行者は、昨年を一万人上回っています。散々「SARS(新型肺炎)」で痛められてきた航空業界にとっては、大変うれしいことではありますが一方で、「旅行、大丈夫かなぁ」という声をあまり聞かないことが不思議でした。「安全は、いつも誰かが用意してくれているもの」という意識が先行しているように思えてなりません。
旅先では、運悪く事故にあうこともあります。例えば、昨年八月ニューヨークで長時間の大停電があり、都市の機能は麻痺しました。ホテルに宿泊中の客は、たまったものではありません。エアコンは止まる、トイレも流せない、エレベーターも止まる、非常階段を使うにも軒並み高層ホテルで三十階以上にいる。普段から、飲料水と軽い食べ物を部屋に用意していた人、小さくとも懐中電灯を携行していた人はどんなに助かったことか、当時のインタビューからも窺えます。
この時代、世界の動向をよく眺め、自分の立ち位置をよく把握したうえで、自らの「危機管理」をすることが、必須条件となってきているのではないでしょうか。
(ひでしま・いっせい=航空評論家)
